番外編/住吉如慶・伊勢物語絵を描いた著名な絵師たち その③

　住吉如慶は、幕府の御用絵師に登用された人です。この人は旧姓を土佐といい、土佐派の門弟でした。

土佐派とは、中世に入ってから長らく朝廷の絵所（えどころ）を預かる絵師の一門で、往時は世襲の一門でした。それだけに、有職故実に通じている点では町の画房の絵師たちとはやや趣が違ったのです。ところが、桃山期に血脈が絶え、絵預所の職も失してしまいます。門弟が堺（さかい）に移り、細々と土佐派を継承していました。江戸期に入ると、一門を受け継いだ土佐光則が活躍し、子息とともに上洛、土佐派を再興したのです。

　この土佐光則の子とも門弟ともいわれるのが、住吉如慶です。

　如慶は土佐派の名を背負って関東にも出向き、その画業が評価されて御用絵師に登用され、やがては帝の命で「住吉」と姓を改め、住吉派の祖となったのです。

　住吉如慶は古典に題材をとることが多く、『伊勢物語絵巻』（東京国立博物館所蔵）を描いています。この絵巻は四代将軍家綱の正室・高厳院の愛蔵品でした。絵柄はさすがにきっちりと、描線が細く、御簾や襖の柄などの細部に至るまで丁寧な描写が見て取れます。

　ところで、如慶はなぜ伊勢物語絵巻を描いたのでしょうか。高厳院の注文だったのかもしれませんが、私はふと、如慶の師・土佐光則の画業を思い浮かべました。土佐光則は源氏物語絵を繰り返し描いているのです（下掲もその一図）。

土佐光則筆　源氏物語画帖 （部分）　メトロポリタン美術館所蔵

　つまり、師の十八番とのバッティングを避け、如慶はあえて大仕事には伊勢物語を選んだのではないでしょうか。如慶の源氏物語絵は数が少ない（残っているものが少ないだけかもしれませんが）ことからも、師への遠慮のようなものが感じられるのです。

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