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服部真澄

​小説家

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名画で読む服部真澄の

​伊勢物語絵解き

全訳小説伊勢物語

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千年の眠りを醒ます

​伊勢物語

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第52回 身分の高いある人に藤を届けた業平。添えたのは春を惜しむ歌だが…。

 

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第50回 番外編/歌川広重・伊勢物語絵を描いた著名な絵師たち その⑦前編

 

第49回 恋い慕うあの人の庭に菊を植えた業平。果たしてその心とは……?

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第48回 伊勢物語第四十七段で人気者に喩えられた、とある〝神具〟とは……?

 

第47回 ホトトギスには別の一面があった。この鳥に喩えられた女性の反論…

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第46回 平安時代から、人は生き物のサバイバル戦略に注目していた。伊勢…

 

第45回 番外編/勝川春章・伊勢物語絵を描いた著名な絵師たち その⑥後編

 

第44回 番外編/勝川春章・伊勢物語絵を描いた著名な絵師たち その⑥前編

 

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第42回 あの日の恋は、時を経たいまならやり直せるのだろうか。第三十段で…

 

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第39回 伊勢物語第27段で女性の傷心を慰めたカジカガエルの美声を令和の …

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第38回 一夜限りで再訪のない彼。伊勢物語第27段で落ち込んだ女性が盥に …

 

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第32回 番外編/鈴木春信・伊勢物語を描いた著名な絵師たち ⑤後編

 

第31回 伊勢物語のエピソード「富士の嶺」の物語絵は「東下り図」とも……

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第30回 番外編/鈴木春信・伊勢物語を描いた著名な絵師たち ⑤中編

 

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お知らせ/新型コロナウイルス感染症(COVID-19)緊急事態宣言中の刊行と…

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伊勢物語第二十七段で落ち込んだ女性が盥(たらい)の水に見たものは。

2020年7月4日
読了時間: 3分

更新日:2020年7月11日

 伊勢物語の主人公(男性)が心から思った女性は二人だけ。ほかの女性とのおつきあいにはどうしても気持が入らず、気まぐれなものとなってしまっています。

 第二十七段も、そんな気まぐれな恋のエピソードです。

 ある女性のもとに一夜は寄ったものの、彼はまたもや、全く寄らなくなってしまいました。

 女性側にしてみれば、落ち込みます。物思いに沈みながら盥にかけられていた簀(す)をのけて水面を見ると、そこにも物思わしげな自分の分身の影が見えました。

 そこで彼女は〝私ほど辛い物思いをする人は自分だけかと思ったら、水の下にも一人悲しんでいる人がいたのねえ……〟と歌を詠みます。

 下掲の絵はその様子を描いたものです。

Scenes from the Tales of Ise(部分)メトロポリタン美術館所蔵
伊勢物語図 部分 国文学研究資料館所蔵 鉄心斎文庫

 物語の本文からは、女性が一人で自身の心境を語っているように読めますが、物語絵には、本文には登場しないお付きの女性らが描かれています。平安時代の高貴な女性は、手を洗うにも侍従などの手を借りていたことが見えてきます。

 盥にもご注目ください。現代人が想像しがちな木地の桶(おけ)とは違い、瀟洒(しょうしゃ)な蒔絵(まきえ)が施され、高台や持ち手のついた贅沢なものだったのです。

(下掲)




 すぐ上の絵の、盥の脇によけてあるのが貫簀(ぬきす)でしょう。水が飛び散るのを防ぐため、盥にかけておくものだったそうです。盥は室内にも運ぶものだったので、そんな配慮が必要だったのかもしれません。埃よけや、ちょっとした物、例えば柄杓(ひしゃく)などを置くのにも重宝だったかと想像します。

 盥だけでなく水を次(つ)ぐ器もエレガントですね。


 ところで、伊勢物語からは話が逸(そ)れてしまいますが、盥について付記しておきます。

 下の絵も同じ段の物語絵ですが、盥の持ち手が尖っているのが見て取れると思います。

伊勢物語(奈良絵本 部分) 国文学研究資料館蔵 鉄心斎文庫

 このように、持ち手が器から角のように突きだしているタイプの盥を〝角盥(つのだらい)〟といいます。平安時代には最もよく用いられていた型だそうです。絵では衣服に隠れて見えませんが、左右均等に二本ずつ、計四本の手があります。

 この角盥を用い、七夕の夜に水を張って梶の葉を浮かべ、織女(しょくじょ)と牽牛(けんぎゅう)の二つの星──ベガとアルタイル──をともに映して逢瀬を眺める雅びな風習がありました。時代とともに盥の形は変わりましたが、風習はいまも一部に残っています。冷泉家の七夕行事、乞巧奠(きっこうでん)でも古式の角盥が用いられています。

 梶の葉の由来は確かではありませんが、舟の梶からの連想で、織姫を彦星のもとへ渡す舟を象徴したのかもしれません。

 今回は新暦の七夕の直前(*旧暦では今年は8月25日。冷泉家の乞巧奠は旧暦に即しての行事)でもありますので、優雅な風習をご紹介しました。

 拙宅にも梶の木があり、ささやかですが七夕には梶の葉を水に浮かべて飾っています。

七夕飾り 梶の葉の設え

 第二十七段後半のお話は次回に続きます。

  

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