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服部真澄

​小説家

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名画で読む服部真澄の

​伊勢物語絵解き

全訳小説伊勢物語

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千年の眠りを醒ます

​伊勢物語

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第50回 番外編/歌川広重・伊勢物語絵を描いた著名な絵師たち その⑦前編

 

第49回 恋い慕うあの人の庭に菊を植えた業平。果たしてその心とは……?

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第48回 伊勢物語第四十七段で人気者に喩えられた、とある〝神具〟とは……?

 

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第46回 平安時代から、人は生き物のサバイバル戦略に注目していた。伊勢…

 

第45回 番外編/勝川春章・伊勢物語絵を描いた著名な絵師たち その⑥後編

 

第44回 番外編/勝川春章・伊勢物語絵を描いた著名な絵師たち その⑥前編

 

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第33回 「二股をかける」を連想させる?〝むさしあぶみ〟とはいったい何か。

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第32回 番外編/鈴木春信・伊勢物語を描いた著名な絵師たち ⑤後編

 

第31回 伊勢物語のエピソード「富士の嶺」の物語絵は「東下り図」とも……

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第30回 番外編/鈴木春信・伊勢物語を描いた著名な絵師たち ⑤中編

 

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「二股をかける」を連想させる……? 〝むさしあぶみ〟とはいったい何か。

2020年5月30日
読了時間: 2分

更新日:2020年6月6日

 伊勢物語の第十三段には、武蔵鐙(むさしあぶみ)という道具が出てきます。

 現代人にはほとんど馴染みのないワードでしょう。

 〝あぶみ〟とは何かといいますと、乗馬に使うツールです。平安時代には馬が車に相当していましたので、馬具の名前もよく知られていたのです。

 まずは形を見てみましょう。


『勢語図説抄』より(国文学研究資料館所蔵 鉄心斎文庫)

 馬と一緒に描かれている例をご覧になると使い方がわかります。下掲の絵では鞍(くら)からあぶみが吊られているのが見て取れますね。この絵では見えませんが、両サイドに吊るされます。

伝 俵屋宗達 “Mount Utsu” (Utsu no yama), from The Tales of Ise (Ise monogatari) 部分 メトロポリタン美術館蔵

 あぶみは乗馬しているときに足を乗せる部分で、バランスを取ることについては自転車のペダルのようなものなのです。

 では、武蔵とは何かといいますと、地名です。武蔵国は馬の名産地でしたので、馬具の産地としても知られていたのでしょう。


 物語のなかで、恋人と引き離されて東国を旅している業平は、武蔵国から都の恋人に「申し上げるのも辛いのですが、言わないとなお辛い」と手紙を書き、表書きに「むさしあぶみ」とだけ書きました。

 それを見た彼女からは、彼をなじり、すねる歌が帰ってきたのです。

「ほかの女性に心を移したことをわざわざ報告してくるなんて、ひどい人。あなたを刺鉄(さすが)にかけて頼みにしていたいけれど、聞くのもつらいし、聞かなければなお辛いわ」

 と。

「むさしあぶみ」の一言が、なぜか彼女を怒らせたわけです。

 なぜかといいますと、当時の人はあぶみから浮気を連想していたのです。

 もうおわかりですね。

 人は馬の鞍をまたぎ、両側のあぶみに足を掛けて平衡を取ります。ですから〝二股をかける〟ことや〝両天秤(りょうてんびん)〟に通じたのです。

 伊勢物語の主人公は、自分の揺れる心さえ、彼女に伝えずにはいられませんでした。ジェラシーをかき立てたかったのか、甘えたかったのか。いずれにも取れるエピソードです。彼女に強く心を残していたからこその行動だと思います。

 付け加えておきますと、彼女の歌に含まれている〝さすが〟とは、これも馬具で、鐙と革紐(ひも)を繋ぐバックル(鐶・かん)の留め金をいいます。

 バックルで結ばれているはずの革紐とあぶみに、彼女は自分たちの心の結びつきを喩えたのです。これは切ない歌ですね。

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